右手に持ったパイプを膝《ひざ》がしらに置き添えて、向き直ってまともに葉子を見た。しかしその時葉子は倉地の言葉にはそれほど注意を払ってはいない様子を見せていた。ちょうど葉子の向こう側にある事務テーブルの上に飾られた何枚かの写真を物珍しそうにながめやって、右手の指先を軽く器用に動かしながら、煙草《たばこ》の煙が紫色に顔をかすめるのを払っていた。自分を囮《おとり》にまで使おうとする無礼もあなたなればこそなんともいわずにいるのだという心を事務長もさすがに推《すい》したらしい。しかしそれにも係わらず事務長は言いわけ一ついわず、いっこう平気なもので、きれいな飾り紙のついた金口《きんぐち》煙草の小箱を手を延ばして棚《たな》から取り上げながら、
 「どうです一本」
 と葉子の前にさし出した。葉子は自分が煙草をのむかのまぬかの問題をはじき飛ばすように、
 「あれはどなた?」と写真の一つに目を定めた。
 「どれ」
 「あれ」葉子はそういったままで指さしはしない。
 「どれ」と事務長はもう一度いって、葉子の大きな目をまじまじと見入ってからその視線をたどって、しばらく写真を見分けていたが、
 「はああれか。あ
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