《いきいき》とした光が添い加わって、甲板の上を毎朝規則正しく散歩する白髪の米人とその娘との足音がこつ[#「こつ」に傍点]こつ快活らしく聞こえていた。化粧をすました葉子は長椅子《ながいす》にゆっくり腰をかけて、両足をまっすぐにそろえて長々と延ばしたまま、うっとり[#「うっとり」に傍点]と思うともなく事務長の事を思っていた。
その時突然ノックをしてボーイがコーヒーを持ってはいって来た。葉子は何か悪い所でも見つけられたようにちょっとぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]として、延ばしていた足の膝《ひざ》を立てた。ボーイはいつものように薄笑いをしてちょっと頭を下げて銀色の盆を畳椅子《たたみいす》の上においた。そしてきょうも食事はやはり船室に運ぼうかと尋ねた。
「今晩からは食堂にしてください」
葉子はうれしい事でもいって聞かせるようにこういった。ボーイはまじめくさって「はい」といったが、ちらりと葉子を上目で見て、急ぐように部屋《へや》を出た。葉子はボーイが部屋《へや》を出てどんなふうをしているかがはっきり[#「はっきり」に傍点]見えるようだった。ボーイはすぐににこ[#「にこ」に傍点]にこと不思議な笑
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