よろけるような足どりで、見えないものに引ずられながら、堂母《ドーモ》の広場の方に近づいて来た。それを見つけると、引返して来た青年たちは一度にとき[#「とき」に傍点]をつくって駈《か》けよりざまにフランシスを取かこんだ。「フランシス」「若い騎士」などとその肩まで揺《ゆす》って呼びかけても、フランシスは恐《おそろ》しげな夢からさめる様子はなかった。青年たちはそのていたらく[#「ていたらく」に傍点]にまたどっと高笑いをした。「新妻《にいづま》の事でも想像して魂がもぬけたな」一人がフランシスの耳に口をよせて叫んだ。フランシスはついた狐《きつね》が落ちたようにきょとん[#「きょとん」に傍点]として、石畳から眼をはなして、自分を囲むいくつかの酒にほてった若い笑顔を苦々しげに見廻わした。クララは即興詩でも聞くように興味を催《もよ》おして、窓から上体を乗出しながらそれに眺め入った。フランシスはやがて自分の纏《まと》ったマントや手に持つ笏《しゃく》に気がつくと、甫《はじ》めて今まで耽《ふけ》っていた歓楽の想出《おもいで》の糸口が見つかったように苦笑いをした。
「よく飲んで騒いだもんだ。そうだ、私は新妻
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