まちなみ》を、張りのある男声の合唱が鳴りひびくと、無頓着《むとんじゃく》な無恥な高笑いがそれに続いた。あの青年たちはもう立止る頃だとクララが思うと、その通りに彼らは突然阪の中途で足をとめた。互に何か探し合っているようだったが、やがて彼らは広場の方に、「フランシス」「ベルナルドーネの若い騎士」「円卓子《パンサ・ロトンダ》の盟主」などと声々に叫び立てながら、はぐれた伴侶《なかま》を探しにもどって来た。彼らは広場の手前まで来た。そして彼らの方に二十二、三に見える一人の青年が夢遊病者のように足もともしどろ[#「しどろ」に傍点]に歩いて来るのを見つけた。クララも月影でその青年を見た。それはコルソの往還を一つへだてたすぐ向うに住むベルナルドーネ家のフランシスだった。華美を極めた晴着の上に定紋《じょうもん》をうった蝦茶《えびちゃ》のマントを着て、飲み仲間の主権者たる事を現わす笏《しゃく》を右手に握った様子は、ほかの青年たちにまさった無頼《ぶらい》の風俗だったが、その顔は痩《や》せ衰えて物凄いほど青く、眼は足もとから二、三間さきの石畳を孔《あな》のあくほど見入ったまま瞬《またた》きもしなかった。そして
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