クララの出家
有島武郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)暗い中《うち》に

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)神の子|基督《キリスト》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)はっ[#「はっ」に傍点]
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       ○

 これも正しく人間生活史の中に起った実際の出来事の一つである。

       ○

 また夢に襲われてクララは暗い中《うち》に眼をさました。妹のアグネスは同じ床の中で、姉の胸によりそってすやすやと静かに眠りつづけていた。千二百十二年の三月十八日、救世主のエルサレム入城を記念する棕櫚《しゅろ》の安息日《あんそくび》の朝の事。
 数多い見知り越しの男たちの中で如何《どう》いう訳か三人だけがつぎつぎにクララの夢に現れた。その一人はやはりアッシジの貴族で、クララの家からは西北に当る、ヴィヤ・サン・パオロに住むモントルソリ家のパオロだった。夢の中にも、腰に置いた手の、指から肩に至るしなやかさが眼についた。クララの父親は期待をもった微笑を頬《ほお》に浮べて、品よくひかえ目にしているこの青年
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