れる光線は、いくつかの細長い窓を暗く彩《いろど》って、それがクララの髪の毛に来てしめやかに戯《たわむ》れた。恐ろしいほどにあたりは物静かだった。クララの燃える眼は命の綱のようにフランシスの眼にすがりついた。フランシスの眼は落着いた愛に満ち満ちてクララの眼をかき抱くようにした。クララの心は酔いしれて、フランシスの眼を通してその尊い魂を拝もうとした。やがてクララの眼に涙が溢れるほどたまったと思うと、ほろほろと頬を伝って流れはじめた。彼女はそれでも真向《まっこう》にフランシスを見守る事をやめなかった。こうしてまたいくらかの時が過ぎた。クララはただ黙ったままで坐っていた。
 「神の処女《むすめ》」
 フランシスはやがて厳かにこういった。クララは眼を外にうつすことが出来なかった。
 「あなたの懺悔は神に達した。神は嘉《よみ》し給うた。アーメン」
 クララはこの上控えてはいられなかった。椅子からすべり下りると敷石の上に身を投げ出して、思い存分泣いた。その小さい心臓は無上の歓喜のために破れようとした。思わず身をすり寄せて、素足のままのフランシスの爪先きに手を触れると、フランシスは静かに足を引きすざら
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