何所《どこ》といって際立って人眼を引くような容貌を持っていなかったが、祈祷《きとう》と、断食《だんじき》と、労働のためにやつれた姿は、霊化した彼れの心をそのまま写し出していた。長い説教ではなかったが神の愛、貧窮《ひんきゅう》の祝福などを語って彼がアーメンといって口をつぐんだ時には、人々の愛心がどん底からゆすりあげられて思わず互に固い握手をしてすすり泣いていた。クララは人々の泣くようには泣かなかった。彼女は自分の眼が燃えるように思った。
その日彼女はフランシスに懺悔《ざんげ》の席に列《つらな》る事を申しこんだ。懺悔するものはクララの外《ほか》にも沢山いたが、クララはわざと最後を選んだ。クララの番が来て祭壇の後ろのアプスに行くと、フランシスはただ一人|獣色《けものいろ》といわれる樺色《かばいろ》の百姓服を着て、繩の帯を結んで、胸の前に組んだ手を見入るように首を下げて、壁添いの腰かけにかけていた。クララを見ると手まねで自分の前にある椅子《いす》に坐れと指した。二人は向いあって坐った。そして眼を見合わした。
曇った秋の午後のアプスは寒く淋しく暗み亘《わた》っていた。ステインド・グラスから漏
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