》なる法皇の御許によって、末世の罪人、神の召によって人を喜ばす軽業師《かるわざし》なるフランシスが善良なアッシジの市民に告げる。フランシスは今日教友のレオに堂母《ドーモ》で説教するようにといった。レオは神を語るだけの弁才を神から授《さずか》っていないと拒《こば》んだ。フランシスはそれなら裸になって行って、体で説教しろといった。レオは雄々《おお》しくも裸かになって出て行った。さてレオが去った後、レオにかかる苦行《くぎょう》を強いながら、何事もなげに居残ったこのフランシスを神は厳しく鞭《むちう》ち給うた。眼ある者は見よ。懺悔《ざんげ》したフランシスは諸君の前に立つ。諸君はフランシスの裸形を憐まるるか。しからば諸君が眼を注いで見ねばならぬものが彼所《かしこ》にある。眼あるものは更に眼をあげて見よ」
クララはいつの間にか男の裸体と相対している事も忘れて、フランシスを見やっていた。フランシスは「眼をあげて見よ」というと同時に祭壇に安置された十字架聖像《クルシ・フィッキス》を恭《うやうや》しく指した。十字架上の基督は痛ましくも痩《や》せこけた裸形のままで会衆を見下ろしていた。二十八のフランシスは
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