一年生の前では古参として猛威を揮《ふる》ふ類に洩《も》れなかつた。室長は一年の時同室だつた父親が県会議員の佐伯《さへき》だつた。やはり一年の時同室だつた郵便局長の倅《せがれ》は東寮に入れられて業腹《ごふはら》な顔をしてゐた。或日食堂への行きずりに私の袖《そで》をつかまへ、今日われ/\皆で西寮では誰と誰とが幅を利《き》かすだらうかを評議したところ、君は温順《おとなし》さうに見えて案外新入生に威張る手合だといふ推定だと言つて、私の耳をグイと引つ張つた。事実、私はちんちくりんの身体の肩を怒らせ肘《ひぢ》を張つて、廊下で行き違ふ新入生のお辞儀を鷹揚《おうやう》に受けつゝ、ゆるく大股《おほまた》に歩いた。さうして鵜《う》の目《め》鷹《たか》の目《め》であら[#「あら」に傍点]を見出し室長の佐伯に注進した。毎週土曜の晩は各室の室長だけは一室に集合して、新入生を一人々々呼び寄せ、いはれない折檻《せつかん》をした。私は他の室長でない二年生同様にさびしく室《へや》に居残るのが当然であるのに、家柄と柔道の図抜けて強いこととで西寮の人気を一身にあつめてゐる佐伯の忠実な、必要な、欠くべからざる腰巾着《こしぎん
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