ちやく》として鉄拳制裁や蒲団蒸しの席につらなることが出来た。一番にも二番にも何より私は佐伯の鼻意気を窺《うかゞ》ひ、気に入るやう細心に骨折つてゐた。
或日、定例の袋敲《ふくろだゝ》きの制裁の席上、禿《はげ》と綽名《あだな》のある生意気な新入生の横づらを佐伯が一つ喰はすと、かれはしく/\泣いて廊下に出たが、丁度、寮長や舎監やの見張番役を仰付《おほせつ》かつて扉の外に立つてゐた私は、かれが後頭部の皿《さら》をふせたやうな円形の禿《はげ》をこちらに見せて、ずんずん舎監室のはうへ歩いて行つたのを見届け、確かに密告したことを直観した。私はあとでそつと禿を捉へ、宥《なだ》め賺《すか》し、誰にも言はないから打明けろと迫つて見たが、禿は執拗《しつえう》にかぶりを掉《ふ》つた。次の日も又次の日も、私は誰にも言はないからと狡《ずる》い前置をして口説《くど》いたすゑ、やつと白状させた。私はほく/\と得たり顔して急ぎ佐伯に告げた。赫怒《かくど》した佐伯に詰責されて禿は今度はおい/\声を挙げて泣き出し、掴《つか》まへようとした私から滑り抜けて飛鳥のやうに舎監室に走つた。三日おいて其日は土曜の放課後のこと、舎監
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