て来る危険を犯すことを辞しなかつた。夜寝床に入ると請はるゝまゝに、祖父から子供のをり冬の炉辺のつれ/″\に聞かされた妖怪変化《えうくわいへんげ》に富んだ数々の昔噺《むかしばなし》を、一寸法師の桶屋《をけや》が槌《つち》で馬盥《ばだらひ》の箍《わ》を叩《たゝ》いてゐると箍が切れ跳《は》ね飛ばされて天に上り雷さまの太鼓叩きに雇はれ、さいこ槌を振り上げてゴロ/\と叩けば五五の二十五文、ゴロ/\と叩けば五五の二十五文|儲《まう》かつた、といつた塩梅《あんばい》に咄家《はなしか》のやうな道化た口調で話して聞かせ、次にはうろ覚えの浄瑠璃《じやうるり》を節廻しおもしろう声色《こわいろ》で語つて室長の機嫌《きげん》をとつた。病弱な室長の寝小便の罪を自分で着て、蒲団《ふとん》を人の目につかない柵にかけて乾かしてもやつた。斯《か》うしてたうとう荊棘《いばら》の道を踏み分け他を凌駕《りようが》して私は偏屈な室長と無二の仲好しになつた。するうち室長は三学期の始頃、腎臓の保養のため遠い北の海辺《うみべ》に帰つて間もなく死んでしまつた。遺族から死去の報知を受けたものは寄宿舎で私一人であつた程、それだけ私は度々見舞
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