うぜん》と身を縮め、わな/\打震へた。次から次と断片的に、疚《やま》しさの発作が浮いては沈み、沈んでは浮びしてゐるうちに、汽車は茅ヶ崎に着いた。
息切れがするので海岸の別荘まで私は俥《くるま》に乗つて行つた。さまで広からぬ一室ではあるが、窓々のどつしりした絢爛《けんらん》な模様の緞子《どんす》のカーテンが明暗を調節した瀟洒《せうしや》な離れの洋館で、花に疲れた一同は中央の真白き布をしたテエブルに集まつて、お茶を飲み、点心《てんじん》をつまみ、ブランスウヰックのバナトロープとかいふ電磁器式になつてゐる蓄音機の華やかな奏楽に聞蕩《きゝと》れてゐた。私が入ると音楽は止んだ。私は眼をしよぼ/\させて事の成り行きを告げると、出し立ての薫《かを》りのいゝお茶を一杯馳走になつて直ぐ辞し去つた。そして松林の中の粉つぽい白い砂土の小径《こみち》を駅の方へとぼ/\歩いた。地上はそれ程でもないのに空では凄《すさま》じい春風が笞《むち》のやうにピユーピユー鳴つてゐる。高い松の枝がそれに格闘するかの如く合奏してゐた。私はハンカチーフで鼻腔《びかう》を蔽《おほ》ひながら松風の喧囂《けんがう》に心を囚へられてゐる
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