れさうなほど涙がぎら/\光つた。と咄嗟に、私にも蒼空の下には飛び出せない我身の永劫《えいごふ》遁《のが》れられぬ手械足枷《てかせあしかせ》が感じられ、堅い塊りが込み上げて来て咽喉《のど》もとが痞《つか》へた。
――鎖が地をひき闇をひきつゝ二十年が経つちまつた。囚はれに泣き、己が罪業に泣き、凡胎の子であることに泣き、そして、永い二十年の闇をひいて来た感じである。囚はれを出で、白日の広い世界をどんなにか思ひ続けて来たであらう! 囚はれのしこ[#「しこ」に傍点]鳥よ、汝《なんぢ》は空しき白日の呪ひに生きよ!――こんなふうの詩とも散文とも訳のわからない口述原稿を、馬糞《ばふん》の多い其処の郊外の路傍に佇《たゝず》んで読み返し、ふと気がつくと涙を呑んで、又午後の日のカン/\照つてゐる電車通りの方へ歩いて行くのであつた。そして私は、自分が記者を兼ね女と一しよに宿直住ひをさして貰つてゐる市内牛込の雑誌社に持ち帰つたことであつた。一九二八年の真夏、狂詩人が此世《このよ》を去つてしまつた頃から私の健康もとかく優《すぐ》れなかつた。一度クロープ性肺炎に罹《かゝ》り発熱して血痰《けつたん》が出たりした時、
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