胸のポケットの革の鉛筆|※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《さし》に並べて※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]した、赤や青や紫やの色とり/″\の鉛筆と、それ等の鉛筆の冠つた光彩陸離たるニッケルのカップとが、私の眼を眩惑《げんわく》させたのであつた。その生徒は英語が並外れて達者なので非常な秀才だらうと驚きの眼をもつて見てゐたのに、後で分つたがそれは落第生であつた。私の妻はその落第生の姉であつたことを知つて、くすぐつたいやうな妙にイヤな気がした。それに何んといふ手落ちな頓馬《とんま》なことであつたであらう、婚礼の晩の三三九度の儀式に私はわなわな顫《ふる》へて三つ組の朱塗の大杯を台の上に置く時カチリと音をさせたが、彼女は実に落着払つてやつてのけたのも道理、彼女は三三九度がこれで二度目の出戻りであつたことを知つたのは子供が産れて一年もしてからであつた。私は彼女の鏡台を足蹴《あしげ》にして踏折つた、針箱を庭に叩きつけた、一度他家に持つて行つたものを知らん顔して携へて来るなど失敬だと怒つて。さうして性懲《しやうこ》りのない痴
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