《あつばひ》を塵取の中に握り込むやうなことをしたが、畳の上にあちこち黒焦げが残つた。私は真赤に顔を染めて雪子の父に謝《あやま》つた。
 遂《つひ》に私は無我夢中に逆上して、家へ出入りするお常婆を介して、正式に許嫁《いひなづけ》の間にして貰へるやう私の父母に当つて見てくれと頼んだ。一方私は俄《にはか》に気を配つて父や母を大切にし出した。お常婆は雨の降り頻《しき》る或晩、弓張提灯《ゆみはりぢやうちん》など勿体《もつたい》らしくつけて、改まつて家へ来た。
「恥ぢを知れ!」
 母はお常婆を追ひ返すと、ばた/\走つて来て私の肩を小突き、凄い青筋をむく/\匐《は》はせ眼を血走らせて、さも憎々しげに罵つた。
「どうも、此頃、様子がへん[#「へん」に傍点]と思うちよつたい。われや、お祭にもよばれて行つたちふこつちや。お常婆に頼うだりしち、クソ馬鹿!」
「お母《つか》ア! わツしや、ホトトギスの武夫と浪子のやうな清い仲にならうと思うたんぢや。若い衆のとは違ふ。悪いこつちやない!」と、私は室の隅に追ひすくめられ乍らも、余りの無念さに勃然として反抗した。
「えーい、何んぢやと、恥ぢを知れ!」と、母は手を上げ
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