は、私はひどく神経を腐らした。そこにも、こゝにも、哀れな、小さい、愚か者の姿があつた。と言つても、背に笞《むち》してひたすら学業にいそしむことを怠りはしなかつた。
俄然、張り詰めた心に思ひもそめない、重い/\倦怠《けんたい》が、一時にどつと襲ひかゝつた。恰《あたか》もバネが外れて運動を止めたもののやうに、私は凡てを投げ出し無届欠席をした。有らゆる判断を除外した。放心の数日を過した。
私は悄々《しを/\》と村の家に帰つて行き、学校を退くこと、将来稼業を継いで百姓をするのに別段中学を出る必要はないこと、家のものと一しよに働きたいと言つた。
父と母と縁側に腰かけて耳に口を当て合ふやうにし何かひそ/\相談をした。
「左様《さう》してくれるんか。えらい覚悟をしてくれた。何んせ、学問よりや、名誉よりや、身代が大切ぢやで、えゝとこへ気がついた」と父が言つた。所帯が苦しいゆゑの退学などとの風評を防ぐ手だてに、飽《あく》まで自発行動であることを世間に言ふやうにと父は言ひ付けた。
半生の間に、母が私の退校当座の短時日ほど、私を劬《いたは》り優しくしてくれたためしはなかつた。母はかね/″\私を学校か
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