からぴか/\磨いた靴を穿いて通学してゐた。朝寄宿舎から登校する私を、それまではがや/\と話してゐた同輩達の群から彼は離れて、おーい、お早う、と敏活な男性そのもののきび/\した音声と情熱的な眼の美しい輝きとで迎へた。私は悩ましい沈欝《ちんうつ》な眼でぢつと彼を見守つた。二人は親身の兄弟のやうに教室に出入りや、運動場やを、腕を組まんばかりにして歩いた。青々とした芝生の上にねころんで晩夏の広やかな空を仰いだ。学課の不審を教へて貰《もら》つた。柔道も二人でやつた。君はそれ程強くはないが粘りつこいので誰よりも手剛《てごは》い感じだと、さう言つて褒《ほ》めたと思ふと、彼独得の冴《さ》えた巴投《ともゑな》げの妙技を喰はして、道場の真中に私を投げた。跳ね起きるが早いか私は噛《か》みつかんばかりに彼に組みついた。彼は昂然《かうぜん》とゆるやかに胸を反《そ》らし、踏張つて力む私の襟頸《えりくび》と袖とを持ち、足で時折り掬《すく》つて見たりしながら、実に悠揚《いうやう》迫らざるものがある。およそ彼の光つた手際は、学問に於いて、運動に於いて、事毎にいよ/\私を畏《おそ》れさせた。このやうな、凡《すべ》て、私に
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