滝のやうに涙を流した。
停学を解かれた日学校に出る面目はなかつた。私は校庭に据《す》ゑられた分捕品《ぶんどりひん》の砲身に縋《すが》り、肩にかけた鞄《かばん》を抱き寄せ、こゞみ加減に皆からじろ/\向けられる視線を避けてゐた。
「イヨ、君、お久しぶりぢやの。稚児《ちご》騒ぎでもやつたんかえ?」
と、事情を知らない或通学生がにや/\笑ひながら声をかけてくれたので、「いゝや、違ふや」と、仲間に初めて口が利けて嬉《うれ》しかつた。私はその通学生を長い間徳としてゐた。
最早私には、学科の精励以外に自分を救つてくれるものはないと思つた。触《さは》らぬ人に祟《たゝ》りはない、己《おのれ》の気持を清浄に保ち、怪我《けが》のないやうにするには、孤独を撰《えら》ぶよりないと考へた。教場で背後から何ほど鉛筆で頸筋《くびすぢ》を突つつかれようと、靴先で踵《かゝと》を蹴《け》られようと、眉毛一本動かさず瞬《またゝ》き一つしなかつた。放課後寄宿舎に帰ると、室から室に油を売つて歩いてゐた以前とは打つて変り、小倉服を脱ぐ分秒を惜んで卓子《テエブル》に噛《かじ》りついた。いやが上にも陰性になつて仲間から敬遠されるこ
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