からこないなことになるんぢや。不孝者の餓鬼奴。今に罰が當つて眼がつぶれようぞ」とお父さまはさも/\憎しげにお兄さまを罵《のゝし》られました。しかし昂奮が去ると「あゝ、なんにもかも因縁因果といふもんぢやろ。お母《つか》ア諦めよう。……仕方がない。敏雄の成長を待たう。それまでに俺が死んだら何んとせうもんぞい」斯うも仰云《おつしや》いました。
 咲子|嫂《ねえ》さまを離縁してお兄さまと千登世さまとに歸つていたゞけば萬事解決します。しかし、それでは大江の家として親族への義理、世間への手前がゆるしません。咲子嫂さまは相變らず一萬圓くれとか、でなかつたら裁判沙汰にするとか息卷いて、質《たち》の惡い仲人《なかうど》とぐるになつてお父さまをくるしめてゐます。何んといつてもお兄さまが不可《いけな》いのです。どうして厭なら厭嫌ひなら嫌ひで嫂さまと正式に別れた上で千登世さまと一緒にならなかつたのです。あんな無茶なことをなさるから問題がいよ/\複雜になつて、相互の感情がこぢれて來たのです。今では縺《もつれ》を解かうにも緒《いとぐち》さへ見つからない始末ぢやありませんか。
 けれどもわたくしお兄さまのお心も理解
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