業苦
嘉村礒多

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)假初《かりそめ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)咲子|嫂《ねえ》さまを

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+穢のつくり」、第3水準1−15−21]《しやく》りあげた。

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)足がふら/\して
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 只、假初《かりそめ》の風邪だと思つてなほざりにしたのが不可《いけな》かつた。たうとう三十九度餘りも熱を出し、圭一郎《けいいちらう》は、勤め先である濱町《はまちやう》の酒新聞社を休まねばならなかつた。床に臥《ふ》せつて熱に魘《うな》される間も、主人の機嫌を損じはしまいかと、それが譫言《うはごと》にまで出る程絶えず惧《おそ》れられた。三日目の朝、呼び出しの速達が來た。熱さへ降れば直ぐに出社するからとあれだけ哀願して置いたものを、さう思ふと他人の心の情なさに思はず不覺の涙が零
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