常隨してその教化を蒙つてゐた關係上、上京すると何より眞つ先きにG師に身を寄せて一切をぶちまけなければ措《お》けない心の立場にあつたのだ。G師の人間的な同情は十分持ち乍らも、しかし、G師自身の信仰の上から圭一郎の行爲を是認して見遁すことはゆるされなかつた。G師は毎夜のやうに圭一郎を呼び寄せて「無明煩惱シゲクシテ、妄想顛倒ノナセルナリ」……今は水の出端《でばな》で思慮分別に事缺くけれど、直に迷ひの目がさめるぞ、斯うした不自然な同棲生活の終《つひ》に成り立たざること、心の負擔に堪へざること、幻滅の日、破滅の日は決してさう遠くはないぞ、一旦の妄念を棄て別れなければならぬ。――斯う諄々《じゆん/\》と説法した。圭一郎は生木を裂かれるやうな反感を覺えながらも、しかし、故郷の肉親に對する斷ち難き愛染は感じてゐるのだから、そして心の呵責《かしやく》は渦を卷いてゐるのだから、そこの虚を衝《つ》かれた日には良心的に實際|適《かな》はない感じのものだつた。圭一郎がG師から兎や斯うきつい説法を喰つてゐる間、千登世は二階で一人わびしく圭一郎の歸りを待ちながら、人通りの杜絶《とだ》えた路地に彼の下駄の音を今か/\
前へ
次へ
全38ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
嘉村 礒多 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング