だ》ちがた/\と戰慄を覺えるのだつた。
 しかし遂には其日が來た。
 圭一郎は中學二年の時柔道の選手であることから二級上の同じく選手である山本といふ男を知つた。眼のつつた、唇の厚い、鉤鼻《かぎばな》の山本を圭一郎は本能的に厭がつた。上級對下級の試合の折、彼は山本を見事投げつけて以來、山本はそれをひどく根にもつてゐた。或日寄宿舍の窓から同室の一人が校庭で遊ぶ誰彼の顏を戲《たはむ》れにレンズで照してゐると、光線が山本の顏を射たのであつた。翌日山本はその惡戲《いたづら》した友が誰であるかを打明けろと圭一郎に迫つたが彼が頑《かたく》なに押默つてゐると山本は圭一郎の頬を平手で毆りつけた。――その山本と咲子は二年の間も醜關係を結んでゐたのだといふことを菩提寺《ぼだいじ》の若い和尚から聞かされた。憤りも、恨みも、口惜しさも通り越して圭一郎は運命の惡戲《いたづら》に呆れ返つた。しかもこの結婚は父母が勸めたといふよりも自分の方が寧ろ強請《せが》んだ形にも幾らかなつてゐたので、誰にぶつかつて行く術《すべ》もなく自分が自身の手負ひで蹣跚《よろけ》なければならなかつた。そして一日々々の激昂の苦しさはたゞ惘然《
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