何してゐます?」「はい。田を作つて居られます」「××さんのは?」「はい。大工であります」「大江さんのお父さんは?」と訊かれて、子供はビツクリ人形のやうに立つには立つたが、さて、何んと答へるだらう? 「大江君の父ちやんは女を心安うして逃げたんだい。ヤーイ/\」と惡太郎にからかはれて、子供はわつと泣き出し、顏に手を當てて校門を飛び出し、吾家の方へ向つて逸散に駈け出す姿が眼に見えるやうだつた。子供ごころの悲しさに、そんな情ない惡口を言つてくれるなと、惡太郎共に紙や色鉛筆の賄賂《わいろ》を使うて阿諛《へつら》ふやうな不憫《ふびん》な眞似もするだらうがなどと子供の上に必定《ひつじやう》起らずにはすまされない種々の場合の悲劇を想像して、圭一郎は身を灼《や》かれるやうな思ひをした。
「あなた、奧さんは別として、お子さんにだけは幾ら何んでも執着がおありでせう?」
千登世は時偶《ときたま》だしぬけに訊いた。
「ところがない」
「さうでせうか」彼女は彼の顏色を試すやうに見詰めると、下唇を噛んだまゝ微塵動《みじろぎ》もしないで考へ込んだ。「だけど、何んと仰言《おつしや》つても親子ですもの。口先ではそんな
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