崖の下
嘉村礒多
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)煎餅屋《せんべいや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)何程|捩込《ねぢこ》んで行つても
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]して、
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)くしや/\の中折帽の
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
二月の中旬、圭一郎と千登世とは、それは思ひもそめぬ些細な突發的な出來事から、間借してゐる森川町新坂上の煎餅屋《せんべいや》の二階を、どうしても見棄てねばならぬ羽目に陷つた。が、裏の物干臺の上に枝を張つてゐる隣家の庭の木蓮の堅い蕾は稍《やゝ》色づきかけても、彼等の落着く家とては容易に見つかりさうもなかつた。
圭一郎が遠い西の端のY縣の田舍に妻と未だほんにいたいけな子供を殘して千登世と駈落ちして來てから滿一年半の歳月を、樣々な懊惱《あうのう》を累《かさ》ね、無愧《むき》な
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