あげる子供と一緒に自分も半分貰ひ泣いてゐるのであつた。また子供はチビの圭一郎の因果が宿つて並外れて脊丈が低かつた。子供が學校で屹度《きつと》一番のびりつこであることに疑ひの餘地はない。圭一郎は誰よりも脊丈が低く、その上に運わるく奇數になつて二人並びの机に一人になり、組合せの遊戲の時間など列を逃げさせられて、無念にも一人ポプラの木の下にしよんぼりと指を銜《くは》へて立つてゐなければならなかつた。それにも増して悲しかつたのは遠足の時である。二列に並んだ他の生徒達のやうに互に手と手を繋《つな》いで怡《たの》しく語り合ふことは出來ず、辨當袋を背負つて彼は獨りちよこ[#「ちよこ」に傍点]/\と列の尻つぽに小走り乍ら跟《つ》いて行く味氣なさはなかつた。斯うしたことが、痛み易い少年期に於いて圭一郎をどれほど萎縮《いぢ》けさしたことかしれない――圭一郎は、一日に一回は、必ずさうした自分の過ぎ去つた遠い小學時代に刻みつけられた思ひ換へのない哀しい回想を微細に捕へて、それをそつくり子供の身の上に新に移し當て嵌《は》めては心を痛めた。と又教師は新入生に向つてメンタルテストをやるだらう。「××さんのお父さんは
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