びさし》を掠めてドツツツと地上に滑り落ちた。
「あつ、あぶない!」
と圭一郎は、慄然《りつぜん》と身顫ひして兩手で机を押さへて立ち上つた。故郷の家の傾斜の急な高い茅葺《かやぶき》屋根から、三尺餘も積んだ雪のかたまりがドーツと轟然《ぐわうぜん》とした地響を立てて頽《なだ》れ落ちる物恐ろしい光景が、そして子供が下敷になつた怖ろしい幻影に取つちめられて、無意識に叫び聲をあげた。
「どうなすつたの?」
千登世はびつくりして隣室から顏を覗けた。
圭一郎は巧に出たら目な言ひわけをして其場を凌《しの》いだが、さすがに眼色はひどく狼狽《あわ》てた。彼は、その日は終日性急な軒の雪溶けの雨垂の音に混つて共同門の横手の宏莊な屋敷から泄《も》れて來るラヂオのニュースや天氣豫報の放送にも、氣遣はしい郷國の消息を知らうと焦心して耳を澄ました。
夜分など机に凭《よ》つてゐるとへん[#「へん」に傍点]に息切れを覺え、それに頭の中がぱり/\と板氷でも張るやうに冷えるので、圭一郎は夕食後は直ぐ蒲團の中に腹匍《はらば》ひになつて讀むともなく古雜誌などに眼を晒《さら》した。千登世が針の手をおく迄は眠つてはならないと思つ
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