新に喚起して圭一郎は恥づかしさに身内の汗の冷たくなるのを覺えた。横手のガードの下で帽子に白筋を卷いた工夫長に指圖されて重い鐵管を焦げるやうな烈日の下にえんさこらさ[#「えんさこらさ」に傍点]と掛聲して運んでゐる五六人の人夫を彼は半ば放心して視遣つてゐた。仕事に有付いてゐるといふことだけで、その人夫達がこの上もなく羨望されて。又次の日には千登世と二人で造花や袋物の賃仕事を見つけようと芝や青山の方まで駈け廻つて、結局は失望して、さうして濕つぽい夜更けの風の吹いて來る暗い濠端《ほりばた》の客の少い電車の中に互ひの肩と肩とを凭《もた》せ合つて引つ返して來るのであつた。
斯うして酒新聞社に帶封書きに傭はれた時分は、月半ばに餘す金は電車賃しかなかつた。その頃、ルバシュカを着た、頭に禿のある豆蔓《まめづる》のやうに脊丈のひよろ/\した中年の彫塑家《てうそか》が編輯してゐた。ルバシュカは三日にあげず「奧さん、五十錢貸して貰へませんか」と人の手前も憚らないほど、その男も貧乏だつた。それでもそのルバシュカは、長い腕を遠くから持つて來て環を描きながらゴールデンバットだけは燻《くゆら》してゐた。その強烈な香
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