」――暫らくすると、圭一郎は被衾《よぎ》の襟に顏を埋め兩方の拳を顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》にあて、お勝手で朝餉《あさげ》の支度をしてゐる千登世に聞えぬやう聲を噛み緊めてしくり/\哭《な》いてゐた。彼は奮然として起き直り、薄い敷蒲團の上にかしこまつて兩手を膝の上に揃え、なにがなし負けまいと下腹に力を罩《こ》めて反衝《はねか》へすやうな身構へをした。
さうした毎朝が、火の鞭を打ちつけられるやうな毎朝が、來る日も來る日もつゞいた。が、圭一郎もだん/\それに馴れて横着になつては行つた。
G師は、ともかく一應別居して二人ともG師の信念を徹底的に聽き、その上で、うはずつた末梢的な興奮からでなしに、眞に即《つ》く縁のものなら即き、離る縁のものなら[#「ものなら」は底本では「ものなる」と誤記]離るべしといふのであつたが、しかし、長く尾を引くに違ひない後に殘る悔いを恐れる餘裕よりも、二人の一日の生活は迫りに迫つてゐたのである。父の預金帳から盜んで來た金の盡きる日を眼近に控えて、溺れる者の實に一本の藁を掴む氣持で、圭一郎は一人の※[#「夕/寅」、第4水準2−5−29]縁《つ
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