つた。
「この間も、選名術の先生に私のことを見て貰うた序《ついで》に聞いてやつたら、福島福造といふ名と四十四といふ年を言うただけで、先生は直《ぢ》きに、『この人はあかんわい、放蕩者で、其の放蕩は一生止まん。止む時は命数の終りや。性質が薄情残酷で、これから一寸頭を持ち上げることはあつても、また失敗して、そんなことを繰り返してる中にだんだん悪い方へ填《はま》つて行く』と言やはつたがな。ほんまに能《よ》う合うてるやないか。」
 到頭詰まつて了《しま》つた煙管を下に置いて、源太郎は沈み切つた物の言ひやうをした。お文は聞えぬ振りをして、板場の方を向いたまゝ、厭な厭な顔をしてゐた。

       三

 源太郎がまた俯いて、読みかけの長い手紙を読まうとした時、下の河中《かはなか》から突然大きな声が聞えた。
「おーい、……おーい、……讃岐屋《さぬきや》ア。……おーい、讃岐屋ア。」
 重い身体を、どツこいしよと浮かして、源太郎が腰|硝子《ガラス》の障子を開け、水の上へ架《か》け出した二尺の濡れ縁へ危さうに片足を踏み出した時、河の中からはまた大きな声が聞えた。
「おーい、讃岐屋ア。……鰻で飯を二人前呉
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