》いたなりに、首を捻《ね》ぢ向けて、お文の方を見た。
「福造の居よる時から、さう言うてたがな、お文よりお磯の方がえゝちうて、福島と島やさかい、磯と文句が続いてえゝと、私《わし》が福造に言うてたがな。……それで書いて来よつたんや。われの名も福島福造……は福があり過ぎて悪いよつて、福島理記といふのが、劃の数が良いさかい、理記にせいと言うてやつたんやが、さう書いて来よれへんか。……私んとこへおこしよつたのには、ちやんと理記と書いて、宛名も福島照久様としてよる。源太郎とはしよらへん。」
 好きな姓名判断の方へ、源太郎は話を総《すべ》て持つて行かうとした。
「やゝこし[#「やゝこし」に傍点]おますな、皆んな名が二つつゝあつて。……けど福造を理記にしたら、少しは増しな人間になりますか知らん。」
 世間話をするやうな調子を装うて、お文は家出してゐる夫の判断を聞かうとした。
「名を変へてもあいつ[#「あいつ」に傍点]はあかんな。」
 そツ気なく言つて、源太郎は身体を真ツ直ぐに胡坐《あぐら》をかき直した。お文はあがつた蒲焼と玉子焼とを一寸|検《あらた》めて、十六番の紙札につけると、雇女に二階へ持たしてや
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