、読んで見なはれ。面白おまツせ。」
気にも止めぬといふ風に見せようとして、態《わざ》とらしい微笑を口元に浮べながら、残り惜しさうに手紙を其処に置き棄てて、お文は立ち上ると、叔父の背後に寄つて、無言で銀場を代らうとした。
「どツこいしよ。」と、源太郎はまた重さうに腰を浮かして、手燭の点けツぱなしになつてゐる三畳へ、大きな身体を這ひ込むやうにして坐つた。煙管はまだ先刻から一服も吸はずに、右の手へ筆を持ち添へて握つてゐた。
「をツ[#「をツ」に傍点]さん、筆……筆。」と、お文は銀場の筆を叔父の手から取り戻して、懈怠《けだる》さうに、叔父の肥つた膝の温味《ぬくみ》の残つた座蒲団の上に坐ると、出ないのを無理に吐き出すやうな欠伸《あくび》を一つした。
源太郎は、蝋燭の火で漸《やつ》と一服煙草を吸ひ付けると、掃除のわるい煙管をズウ/\音させて、無恰好に煙を吐きつゝ、だらしなく披《ひろ》げたまゝになつてゐる手紙の上に眼を落した。
「其の表書《うはがき》なア、福島磯といふのを知つてるのが不思議でなりまへんのや。」
手紙を三四行読みかけた時、お文がこんなことを言つたので、源太郎は手紙の上に俯《うつぶ
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