鱧の皮
上司小剣

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)焦々《いら/\》した

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)福島|磯《いそ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)をツ[#「をツ」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いら/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

       一

 郵便配達が巡査のやうな靴音をさして入つて来た。
「福島|磯《いそ》……といふ人が居ますか。」
 彼は焦々《いら/\》した調子でかう言つて、束になつた葉書や手紙の中から、赤い印紙を二枚|貼《は》つた封の厚いのを取り出した。
 道頓堀の夜景は丁《ちやう》どこれから、といふ時刻で、筋向うの芝居は幕間《まくあひ》になつたらしく、讃岐屋《さぬきや》の店は一時に立て込んで、二階からの通し物や、芝居の本家や前茶屋からの出前で、銀場も板場もテンテコ舞をする程であつた。
「福島磯……此処《こゝ》だす、此処だす。」と忙しいお文は、銀場から白い手を差し出した。男も女も、襷《たすき》がけでクル/\と郵便
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