灯に透かして、一心に長い手紙を披《ひろ》げてゐる、お文の肉附のよい横顔の、白く光るのを、時々振り返つて見ながら、源太郎は、姪《めひ》も最《も》う三十六になつたのかあアと、染々《しみ/″\》さう思つた。
毛糸の弁当|嚢《ぶくろ》を提げて、「福島さん学校へ」と友達に誘はれて小学校へ通つてゐた姪の後姿を毎朝見てゐたのは、ツイ此頃のことのやうに思はれるのに、と、源太郎はまださう思つて、聟《むこ》養子を貰つた婚礼の折の外は、一度も外の髪に結つたことのない、お文の新蝶々を、俯《うつむ》いて家出した夫の手紙に読み耽つてゐるお文の頭の上に見てゐた。其の新蝶々は、震へるやうに微かに動いてゐた。
「何んにも書いたらしまへんがな。……長いばツかりで。……病気で困つてるよつて金送れと、それから子供は何《ど》うしてるちふことと、……今度といふ今度は懲《こ》り/\したよつて、あやまる[#「あやまる」に傍点]さかい元の鞘《さや》へ納まりたいや、……決つてるのや。」
口では何でもないやうに言つてゐるお文の眼の、異様に輝いて、手紙を見詰めてゐるのが、蝋燭の光の中に淡く見出された。
「まアをツ[#「をツ」に傍点]さん
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