まむし」に傍点]が五つ上ると金太に魚槽《ふね》を見にやつとくなはれ。……金太えゝか。」
 気軽に尻を上げて、お文は叔父と板前の金太とに物を言ふと、厚い封書を握つたまゝ、薄暗い三畳へ入つた。
「よし来た、代らう。どツこいしよ。」と、源太郎は太い腰を浮かして、煙管を右の手に、煙草入を左の手に攫《つか》んで、お文と入れ代りに銀場へ坐つた。
 豆絞りの手拭で鉢巻をして、すら/\と機械の廻るやうな手つきで鰻を裂いてゐた板前の金太は、チラリと横を向いて源太郎の顔を見ると、にツこり笑つた。
「此処へも電気|点《つ》けんと、どんならんなア。阿母《おか》アはんは倹約人《しまつや》やよつて、点けえでもえゝ、と言やはるけど、暗うて仕様がおまへんなをツ[#「をツ」に傍点]さん。……二十八も点けてる電気やもん、五燭を一つぐらゐ殖《ふ》やしたかて、何んでもあれへん、なアをツ[#「をツ」に傍点]さん。」
 がらくた[#「がらくた」に傍点]の載つてゐる三畳の棚を、手探りでガタゴトさせながら、お文は声高に独り言のやうなことを言つてゐたが、やがてパツと燐寸《マツチ》を擦つて、手燭に灯を点けた。
 河風にチラ/\する蝋燭の
前へ 次へ
全34ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
上司 小剣 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング