ぜた払ひを検《あらた》めて、それから新らしい客の通した麦酒《ビール》と鮒の鉄砲和《てつぱうあへ》とを受けてから、一寸の閑《ひま》を見出したお文は、後《うしろ》を向いてかう言つた。彼女の手には厚い封書があつた。
「さうか、矢ツ張り福造から来たんか、何言うて来たんや。……また金送れか。分つてるがな。」
 源太郎は眼をクシヤ/\さして、店から射す灯に透かしつゝ、覗《のぞ》くやうに封書の表書《うはがき》を読まうとしたが、暗くて判らなかつた。
「をツ[#「をツ」に傍点]さんに先き読んで貰ひまへうかな。……私《わたへ》まだ封開けまへんのや。」
 かうは言つてゐるものの、封書は固くお文の手に握られて、源太郎に渡さうとする容子《ようす》は見えなかつた。
「お前、先きい読んだらえゝやないか。……お前とこへ来たんやもん。」
「私、何や知らん、怖いやうな気がするよつて。」
「阿呆《あほ》らしい、何言うてるのや。」
 冷笑を鼻の尖端《さき》に浮べて、源太郎は煙の出ぬ煙管を弄り廻してゐた。
「そんなら私《わたへ》、そツちへいて読みますわ。……をツ[#「をツ」に傍点]さん一寸銀場を代つとくなはれ、あのまむし[#「
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