に立つた叔父の大きな身体を見上げるやうにして、かう言つた。
「手紙テ、何処からや。……福造のとこからやないか。」
源太郎は年の故《せゐ》で稍《やゝ》曲つた太い腰をヨタ/\させながら、銀場の横の狭い通り口へ一杯になつて、角帯の小さな結び目を見せつゝ、背後《うしろ》の三畳へ入つた。
其処には箪笥《たんす》やら蠅入らずやら、さま/″\の家具類が物置のやうに置いてあつて、人の坐るところは畳一枚ほどしかなかつた。其の狭い空地へ大きく胡坐《あぐら》をかいた源太郎は、五十を越してから始めた煙草を無器用に吸はうとして、腰に挿した煙草入れを抜き取つたが、火鉢も煙草盆も無いので、煙草を詰めた煙管《きせる》を空しく弄《いぢ》りながら、対《むか》う河岸《がし》の美しい灯の影を眺めてゐた。対う河岸は宗右衛門町で、何をする家か、灯がゆら/\と動いて、それが、螢を踏み蹂躙《にじ》つた時のやうに、キラ/\と河水に映つた。初秋の夜風は冷々《ひえ/″\》として、河には漣《さゞなみ》が立つてゐた。
「能《よ》う当りましたな。……東京から来ましたのや。……これだす。」
勘定の危《あやぶ》まれた二階の客の、銀貨銅貨取り混
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