ど今それで煙管掃除の紙捻を拵へようかと思うたんや。」
 封書を一寸見やつただけで、お梶は顔を顰め/\、毒々しい黒い脂《やに》を引き摺り出して煙管の掃除を続けた。
「まア一寸でよいさかい、其の手紙を読んどくなはれ。それを読まさんことにや話が出来まへん。」
「福造の手紙なら読まんかて大概分つたるがな……眼がわるいのに、こんな灯で字が読めやへん。何んならをツさん[#「をツ」に傍点]、読んで聞かしとくれ。」
 煙管を下に置いて、巧みな手つきで短くなつた蝋燭のシンを切つてから、お梶はスパ/\と快く通るやうになつた煙管で、可味《うま》さうに煙草を吸つて、濃い煙を吐き出した。源太郎は自分よりも上手な煙草の吸ひやうを感心する風で姉の顔を見つめてゐた。
 孫はまた祖母の膝に戻つて、萎びた乳も弄らずに、罪のない顔をして、すや/\と眠つて了つた。
「福造の手紙を読《よん》で聞かすのも、何《なん》やら工合がわるいが、……ほんなら中に書いてあることをざつと言うて見よう。」
 源太郎はかう言つて、構へ込むやうな身体つきをしながら、
「まア何んや、例《いつ》もの通りの無心があつてな。……今度は大負けに負けよつて、二
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