とをいっているのを私は小さい時から知っている。
二人は何かしきりに話し合っていたが、そのうち叔母は立ち上って押入れから櫛箱を出して来た。
「これにしましょうか」叔母はそのうちの一つの櫛を取って見まわしながらいった。「でも少し好すぎるわねえ。惜しい気がするわ」
父は答えた。
「どうせ捨てるんだ。どんなものを捨ててはならんということはない。櫛でさえあれば……」
叔母はそこで歯の折れた櫛を髪に挿して、頭から振り落す稽古をした。
「そんなにしっかり挿す必要はない。そっと前髪の上に載っけておけばいいんだ」と父はいった。
「うちの玄関口から出て前の空地を少し荒っぽく走ればすぐ落ちるよ」
いわるるままに叔母はその折れた櫛を挿して出かけて行った。そしてものの五分とたたないうちに櫛を振落して叔母が帰って来た。
「それでよし、悪運が遁《に》げてしまった。来年からは運が向いて来る」
父がこういって喜んでいるところへ、母が戻って来た。
母が泣いている弟を背からおろして乳を呑ませている間に、叔母は買物の風呂敷包みを解いた。なんでも、切餅が二、三十切れと、魚の切身が七、八つ、小さい紙袋が三つ四つ、それ
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