から、赤い紙を貼った三銭か五銭かの羽子板が一枚、それだけがその中から出て来た。
これが私たちの楽しいお正月を迎えるための準備だったのである。
翌年のお正月に母の実家から叔父が遊びに来た。叔父が帰ると、すぐにまた祖母がやって来て叔母に一緒に帰れといった。けれど、叔母は帰らずに祖母だけが帰って行った。
なんでもそれは、あとで人にきくところによると、正月に遊びに来た叔父は父と叔母とのことを知って、家に帰って話すと、祖母が心配して、お嫁にやるのだからとの理由でつれに来たのだそうである。
だが、父はむろんそれを承知する筈がなく、かえって、叔母の病気がまだよくなっていないのに、今お嫁になどやると生命にもかかわるとおどかしたそうである。
「なに、それはいいんだよ。先方は金持ちなので、貰ったらすぐ医者にかけるという約束になっているんだから」
祖母はこう答えたけれど、父は今度は、いつもの運命論をかつぎ出して、自分が不運続きのため叔母の着物をみな質に入れた、だからこのまま還すわけにはゆかぬとか、叔母は身体が弱いから百姓仕事はとても出来ない、自分もいつまでもこうしてはいないつもりだから、そのうち
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