金子ふみ子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)暖簾《のれん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|叢《むら》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いさかい[#「いさかい」に傍点]
−−

 私の記憶は私の四歳頃のことまでさかのぼることができる。その頃私は、私の生みの親たちと一緒に横浜の寿町に住んでいた。
 父が何をしていたのか、むろん私は知らなかった。あとできいたところによると、父はその頃、寿警察署の刑事かなんかを勤めていたようである。
 私の思出からは、この頃のほんの少しの間だけが私の天国であったように思う。なぜなら、私は父に非常に可愛がられたことを覚えているから……。
 私はいつも父につれられて風呂に行った。毎夕私は、父の肩車に乗せられて父の頭に抱きついて銭湯の暖簾《のれん》をくぐった。床屋に行くときも父が必ず、私をつれて行ってくれた。父は私の傍につきっきりで、生え際や眉の剃方についてなにかと世話をやいていたが、それでもなお気に入らぬと本職の手から剃刀を取って自分で剃ってくれたりなんかした。私の衣類の
次へ
全22ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
金子 ふみ子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング