手に入らない。高臺に疵があるばかりに小庵の什器に加はつてゐる。茶わんの形、強火に堪えたうねり、古さびた白、澁いしみ、古萩の良さを多量に具へてゐるが、さて高臺に疵あり、金十數圓にて手もなく藏什となる。茶をたゝえずとも、手に觸れ、目に見るだけでも千金に替へ難い値打がある。茶を酌んだとて漏るわけでなく、高臺の割れたのがいけないといふ。なんと有難い疵であるかよ。
 安南茶わん。正眞正銘の安南燒があつた――だが、疵があるために殘念ながら見たゞけで買つて來なかつたと或る道具商がいふ。代若干なりや。答へて曰く銘仙一ぴきの代のみ。それでは取寄せてもらひたいといつたのが大變な茶わん。若しニユウの大疵なかりせば何々庵茶會の會記に書きのぼせらるゝ名品であらうが――有難いことにはニユウがあつて私の什になつた。
 等々々、こんなことを書けば其の餘りに殘念物の多さに驚くと共に、是等殘念物の御蔭で身邊多祥であることを感謝したいのだ。
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   先づ得よ

 やきものを知るには何から始むればよいかと人に聞かれる。
 それは何からでもよい、徳利を集めてもよい、徳利は一時暴騰したことがあるが現在では極めて安い、
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