ろにも亦興味があつて寒山がなくて却つて意味深長、拾得一人ゐても少しも物足らぬ氣持がしない、構圖、氣魄、すべて秋月といふ畫人の良さがあれば夫れでいゝのではあるまいか。われら貧人には寒山を家の外に逸してゐるところに却つて興趣がある、敢て負惜しみをいふのではない。疵陶亦然矣。
 いやに口幅ッたいことをいふやうであるが、私の持つ殘念物をいはふなら――
 黄瀬戸茶わん。極めて古い手のもので、見込にポンと菊の文樣の押花型がある。これに若し底部に疵がなかつたならば千金の價をもつであらうが、殘念物のためにカフエー一夕の資にも足らぬ代價で小庵の氣もちをあたゝかくしてくれる。胎土、ロクロ、くすり、堪らなくいゝ。底は上げ底になつて、窯道具のくッつきが焦げついて居り澁からず華やかならず、浮つかず重過ぎず、申分のない黄瀬戸茶※[※[#「※」は「上が「夕+ふしづくり」+下が「皿」」、第3水準1−88−72、読みは「わん」、59−7]である。一見するに殘念物の感更になし。たゞ「底拔け茶わん」として在來の茶人が厭ふのみである。
 古萩茶わん。萩燒も極めて古いところになると滅多に見當らない。若しあれば又富豪の力でないと
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