がいゝやうに思ふ。斯くいふ私は名器どころか瓦石に等しいものしか持たないが其の九割は疵物である、その疵であるといふことは殘念には思ふが別に淋しいとは思はない。疵物に對し平氣で而も心は富んでゐるつもりでゐる――
 道具屋の間で「殘念物」といふ。殘念だが疵があるとか、むけ[#「むけ」に傍点]やほつれ[#「ほつれ」に傍点]があるとかいふのである。むけ[#「むけ」に傍点]といふのは先刻御承知であらうが、古染付などで藥の剥げてゐるところなどあることを云ひ、ほつれ[#「ほつれ」に傍点]といふのは口邊など一寸ほつれてゐることを指す。又ニユウが入つてゐる。こんなのを殘念物だといふ。
 例へば秋月筆の寒山拾得の幅が對であるとして拾得しかなく「寒山いづこ」といふ殘念物があつたとする。對幅だから二幅揃つたならば千兩するのであるが「あゝ寒山いづこ」で一幅の方は行方不明で、拾得のみのをもつてゐるので殘念物――そこで三十圓か五十圓か、そんな評價はしらないが先づ燒物からいへば疵物の價で手に入る。さて此の片輪な幅を掛けてみてどうであらう。寒山があつたならば定めしいゝであらうと思はるゝけれど、寒山の行方何處――といふとこ
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