古さといふことは傳統といふことである。名物とか大名物とかいふものは品物の良さと共に其の古さが尊ばれてゐる。古さの歴史がはつきりしてゐる一つの器物につながつてゆく因縁、※[#「※」は「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28、30−5]話、書付、さういふものが大切に傳へられてゐる。一つの茶入が何萬圓したなど謠はれて、聞く人は「ほゝう」と驚く。これは品物の良さもあらうが古さの價が加はつてゐる。しかし一面、考へやうに依つては其の古さの樂しみは、われら貧乏人と雖も味へないことはない。それは其人々々の心のおきどころ次第である。何萬圓の茶入も、今日五十錢しかしない茶入も、同じ土で、同じ窯の中で、同じ火の洗禮を受けて生れたのかもしれない。瀬戸の古窯から發掘さるゝ破片は今日大名物となつてゐる茶入と共に燒かれたのかもしれない。一は世に傳へられ、一は割れたゝめに窯の附近に捨てられたのであらう、又はよき伯樂なきため、末代まで庶民階級の間をごろ/\して、場末の古物商の手にかゝつて今以て埃を被つてゐるのかもしれない。戸籍を洗へば一つの窯から出たのであらうが、そこに人間に認識さるゝ縁、不
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