ゞこゝのみに、少しばかり木立あり、井戸さへありて、人住めり。この山、高さわづかに千餘尺なるも、房總の間にては、高山のうち也。館山灣より北にあたりて、眼に見ゆる群山の中にて、最も高く、頂上のとがりて見ゆるは、即ち、この富山なり。
犬掛、瀧田、北條、館山を經て、沼村の宿にかへりしは、夜の十一時なりき。
六 人力車との競爭
余等は、今房州を去らむとする也。
瀬戸、生駒二氏は、汽船にて、直ちに東京にかへらむとす。他の八人は、木更津まで陸行し、鋸山に一泊し、鹿野山にも、亦一泊せむとする也。その八人の中にても、車にのるもの二人、盟主の佐々木高美氏と中村久弘氏と也。あとの六人は徒歩す。徒歩するものも、亦二組にわかる。佐々木高志氏、伊藤正弘氏、千頭直雄氏、中村岩馬氏は、先づ發す。藤井久萬三氏と余とは、人力車と同時に發す。余等二人は、ひそかに脚力の強きを恃める也。
午前六時半、四人の徒歩組は先づ發しぬ。九時に至りて、人力、徒歩の混成隊も發しぬ。二人の汽船組は、やがて後より發する也。
路を那古に取り、木根峠を越え、勝山、保田を經て、鋸山に上らむとす。われら二人、時には人車に先ん
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