すること、やゝしばし、『着るに布團なく、食ふに物なきを承知ならば、やどられよ』とて、われらを一室に導きぬ。ふすまを見れば、梁川星巖の詩が書かれたり。その詩に曰く、
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流丹萬丈削[#二]芙蓉[#一]。寺在[#二]磅※[#「石+溏のつくり」、219−9]第幾重[#一]。卷[#レ]地黒風來[#二]海角[#一]。有[#レ]時微雨變[#二]山容[#一]。
三千世界歸[#二]孤掌[#一]。五百仙人共一峯。怪得殘雲挾[#二]腥氣[#一]。老僧夜降石潭龍。
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        五 富山

朝、起き出でて、寺の庭より眺むるに、東京灣を見下し、更に外洋に及ぶ。洲ノ崎も見え、大武岬も見ゆ。烟を吐く大島も見ゆ。庭に石あり、龜に似たり。龜石と名づく。かれこれする程に、六時になりければ、寺を辭し、五百の石羅漢を顧みつゝ、上りて十州眺望臺にいたる。昨日の朝の雨にひきかへて、今日は晴天也。脚下に關八州を見わたして、快甚だし。
 下りて、天然の石をそのまゝに刻みたる大佛を見上げ、なほ下りて海岸に出でて、猫石を見る。前夜の茅店に至りて提燈をかへし、午食す。生駒氏は、昨夜、山路
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