る青桐、人を容るべき空洞を有し、一丈位より上は切られて、小枝四方に簇出す。一同立止りて、これは珍らしと見入れば、『夏、此木の上にて晝寢したら好からむ』と、槇園君のいふに、一同覺えず打笑ふ。その瞬時は、何故に笑ひしかが分らざりしが、下司の後智慧、よく/\考ふれば、これ一種の機智なりと氣付く。
町の中程より左折し、行くこと數町にして、萬年橋を渡る。こゝは多摩川の上流也。下流の幅ひろく沙磧大なるとは違ひ、兩崖相迫りて高く、從つて橋より水面まで、餘程の距離あり。清き水、川の全幅を滿たして流る。左右の山も近くして、橋をして一層の幽趣を帶ばしむ。
青梅はまた山間の市街也。萬年橋を渡りては、全くの山村也。珍らしくも、また骨董店といふよりは、古道具屋といふべき店あり。例の槇園君ちよつと冷かして、直ちに去る。斐己大人の言ひし如く、ぽつ/\梅あり。多くは長大也。中には一本か、三本合したるものなるかとさへ疑はるゝ大木もあり。幾たびか溪に架せる橋を渡る。左に小學校を見、右に村役場を見て、始めて梅の本家なる下村に達す。老木、屋よりも高く、相連なりて林を爲す。その間に家あり、畑あり。一段高まれる天滿宮より更に
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