梅の吉野村
大町桂月

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#二の字点、1−2−22]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)待てど/\
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冬は萬物みな蟄す。溌剌たる鯉の如きも、冬、爼の上に載するに、ぢつとして動かずと聞く。人間もこの例に洩れざるが、萬事例外あり。活氣ある人間は、冬とても動く。梅花咲く頃は、春とは云へ、風なほ寒し。梅見には餘程の勇氣を要す。珍らしや、裸男が末斑をけがし居る好文會の幹事より、吉野村探梅の事を報じ來たる。八人の會員、みな揃へば好いがと案じつゝ、新宿驛に至りしが、幹事の槇園君、先づ在り。『鳥野君だけは、家内に病人ある爲め、來たる能はず』といふ。されど、昨夜雨ふりたり。今朝も曇りて、今にも降り出しさうな空模樣也。鳥野君は已むを得ずとして、他の會員が揃へば好いがと繰り返しつゝ待つ程に、旅行家の天隨君來たる。やつとこれにて三人になりたり。その後は、待てど/\、來たるもの無し。い
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