、籬外溪畔、疎影暗香の觀ある吉野村、梅園村などの梅を取らむか。
梅花の觀終りて、日猶ほ高し。臨風は舊遊の夢の名殘やしのばれけむ、これより土浦にもどりて一宿せむと言ひ出でたれど、余は那珂川を下りて大洗に一宿する方が、紀行の種も多くなりて面白かるべしと云ふ程に、崖下の汽笛頻に客を呼ぶ。さらばあの舟にとて、走りゆきて、湊町通ひの小蒸氣にのりぬ。行程凡そ三里、春水溶々として平らかなり。兩岸は麥ばたけ、こんもりしたる木立など相接し、その間にをり/\茅屋を點す。柴門の外の雁木にうつぶきて、水に纎手をひたせる少女は、澤につみたる根芹洗ふにやあらむ。堤上に舟と竝行せし行人、いつしか後になりて、はては寸大となりて霞の中に消ゆるもをかし。那珂川の海に朝する處、女波男波の雪をくづして川流とたゝかふ處、長橋波に俯して、湊町と祝町とを連絡す。こゝにて舟をすてて、祝町に上る。こゝは湊町をはなれて、別に一郭をなし、酒樓、娼樓、屹として海邊に立ちならべり。半里ばかり砂地を歩みて、大洗につきたる頃は、日はたそがれに近かりき。金波樓に投ず。
磯前祠の下、直ちに海波に俯せる三階の上の、眺望定めておもしろかるべけれど、暮
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