々、白帆浮ぶ。國府臺水に接して、積翠を凝らし、葛西葛飾の水田、茫々盡くる所を知らず。栗市の渡をわたりて、國府臺に上り、一茶店に就いて酒を呼ぶ。櫻花數十株、喬松の間にまじる。一條の櫻雲、小利根川畔に遠く相連なる。東京の方を見れば、數百千の煙突煙を吐く。十二階殊に目立ちて見ゆ。皇城まで直徑三里もあるべし。號砲の音、さやかに聞ゆ。鄰席の一群の中に、早川純三郎氏あり。裸男を認めて、來り話す。思ひがけぬ人に逢ひて、酒も一層の味を添ふ。早川氏その一群と共に去りて後、凡そ二十分、われらも發足して、栗市の渡をもとへ戻り、川に沿うて上る。上るに從ひて、櫻の木漸く大也。とぎれ/\に遊客に逢ふ。柴又帝釋天の後方にて、また早川氏の一行の川より上り來たるに逢ふ。この一行は、栗市より舟にて上りたる也。逢うて話す間もなく、この一行は帝釋天さして去り、我等は花のトンネルを行く。別れて間もなく、その一行の中に、『御兩人/\』と連呼するものあり。われら兩人の事かとふりむけば、土手の傾斜面に、若き男女相竝びてすわる。男の顏は黒く、女の顏は白し。男冷かされて、少しうつむきたるが、女はずう/\しくも手招きしながら、『新馬鹿大將
前へ
次へ
全7ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング